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アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:33:12
ねつ造成分当社比1.5倍
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:33:48
真実の物語。
それはとある戦場での双子の誕生だったり、あるいは、心優しい竜の悲しい決意だったり。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:36:46
旅立つ時は、他人事のような、どこかで読んだお伽噺のようなものだった。
赤い竜の伝説。16年前アルシーア島を戦火に包んだ人と魔物の戦争。
突如現れた赤い竜とその背に跨った黒い騎士が、魔物も人間も全てを焼き尽くした。
魔物は絶え、竜は封印された。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:37:24
そして。
その時生まれた子供はもう16歳になった。
友だちもたくさんできた。
生みの親という存在はいないが、ずっと傍で守ってくれる人もいる。
その人たちと共に、旅に出た。
自分が課された使命を全うするために。
だけど真実を知った。
島の先生が自分を取り上げてくれた、その時の惨状を。
大事な親友のお父さんが、赤い竜を封印したことを。
少しひょうきんな彼が、母を殺した人の子供だということを。
いつも無口な彼が、自分の、弟で、私が、私が――――
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:38:01
アルシーア島からはるばる船を乗り継いで来たダイワ。
その首都オオドにあるヤマトの工房でガードナー一行は自分が知っていた事実を根底から覆されることになる。
島を襲った魔物を封印するために己の身を捧げた赤い竜。そして、それを解放するために生きてきた黒い騎士。
またハイドは、自分の父親がどういうことをしてきたのかを目の当たりにすることになった。
それぞれの思惑を胸に夜は更け、一行はヤマトの工房で一夜を過ごすことになった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:38:42
場所は浴室。広々とした檜造りの湯船に温かな湯がいっぱいに張られ、たくさんの柚子がぷかぷかと揺られていた。
フェリアとエレナは旅の疲れを癒すようにその全身を湯船に沈めていた。
解放的な空間にも関わらず、二人の表情は物憂げだ。
膝を抱えたフェリアとそれを心配そうに見つめるエレナ。
特にフェリアは何を考えているのか、心ここにあらず、といった感じだ。
エレナが何かを言っても、上の空。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:40:42
しかし、「何でも言って」という親友の言葉に、フェリアはこう問いかけた。
「レナちゃんは、好きな人っている?」
エレナは「フガクさんが好き」と答える。大きいとことか、イケ面なとことか、エレナはフガクの好きなところをあげた。エレナの熱烈な言葉と普段のフガクを比べて、少し疑問に思ったフェリアは小さく首を傾げた。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:41:28
次にフェリアは「レナちゃんのお父さんって優しそうな人だったね」と切りだした。
過去の回想で見たエレナの父、エドワード・ドーソン。
竜研究家で、竜が好きで、物心ついたころには既に家にいなかったことの多かった彼に、今度はエレナが首を傾げる。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:42:00
さらにフェリアは「私のお父さんは、怖そうな人だった」と続ける。
「顔はとっても怖かったけど、お母さんのこと、すごく、大事にしていた。
お母さんも、お父さんのこと、好きだって、わかった」
話は終わりと判断したのか、ざぱーという音を立ててフェリアが立ち上がる。
その表情は決して晴れることはなかった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:42:48
それと時を同じくして、フガクは滝に打たれていた。
32歳という、一応メンバーの中で一番の年長者である彼だが、今回のあまりに凄惨な過去を見るにあたって激昂してしまったことを彼なりに恥じていたのだ。
ちょうど工房の裏手によい修行場になりそうな場所があったので、滝行に励んでいたのだが、それも終わった頃を見計らったかのようにヤマトがやってきた。
ヤマトに連れられて庭に置かれた席に落ち着くと、お手伝いのカエデがお茶と菓子を持ってきた。
ヒロシマ藩の名物、もみじまんじゅうである。
甘党のフガクの大好物でもある。
ひと口食べてみて、フガクはそれがある人の手作りだとわかる。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:43:18
それはフガクがダイワを離れる前、ヒロシマ藩の神社にて修行をしていた時のことである。
フガクは戒律を破り、1人の女性と恋をしたのだ。
時にフガク16歳。まだ今よりずいぶんと背も低く、若くヤンチャの盛りであった。
その女性が作る白あんのもみじまんじゅうがフガクは大の好物であったのだ。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 16:47:05
ヤマトが言うに、その白あんのもみじまんじゅうはその店ではあまり人気のない商品だということだ。
でも、その店の店主は決して、白あんのもみじまんじゅうを商品から下げることをしないのだという。
ヤマトに自分の遍歴を知られていることに複雑な心境を抱きつつ、今起こっているフェリアの問題に片がついたら、一度またヒロシマを訪れるのも悪くはない、と茶をすするフガク32歳の夜だった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:44:23
そして翌日。
来た時と同様にあわただしく、ガードナーは去っていく。
目的地はアルシーア島、使うのはヤマト所有の転送陣。
真実を知った一行に、今度は完全に魔物を封印できる術を封じた巻物を託し、ヤマトはこう告げた。
「あの島はお前らの場所で、これからはお前らの時代だ。
お前らで未来を決めろ」
今度こそ、封印を完全なものにするか、それとも、黒い騎士が望んだように、封印された魔物を倒し、赤い竜を解放するのか。
答えは未だ決められぬまま、ガードナーはヤマトに送られアルシーア島に帰っていく。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:45:28
少し時を戻し、とある地下に存在する部屋。
物置きのように物が散乱する埃っぽい部屋の中に一人の女性が錠で繋がれていた。
「夕焼けの星」信者メルティ。潜入任務に失敗した彼女の体には衣服で隠れてはいるものの、様々な拷問の痕が今も生々しく残されていた。
顔は虚ろで、目に生気はない。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:46:44
そんな限界状態で放置された彼女の耳に靴音が響く。
またいつもの時間か、咄嗟に目が僅かに残った正気を灯し、怯えに鎖を鳴らした彼女だったが、その靴音がいつもと違うものだということに気づく。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:47:56
コツン、コツンと硬質な革靴の音はやがて扉の前で止まり、入ってきたのは礼服を纏った長髪の男だった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:48:34
「卑劣な神殿の暴力に、よく耐えましたね」
警戒する彼女の体を硬直させたのは、意に反して優しい言葉だった。
固まったままの彼女の頬を撫で、毒のように甘い声で男は続けた。
「さあ、今こそかつての力を振るう時です」
その言葉に、メルティは、ついに「その時」が来たのだ、と悟った。
かつて、赤い竜が大空を飛んでいた「その時」。我ら教団が願ってやまなかった「その時」が!
メルティは安堵と希望の涙を流して答える。
「はい、預言者さま…」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:49:10
転送されてきた先は、アルシーア島の山中。かつて赤い竜とクロが住んでいたところである。
黒い騎士はすでに先にヤマトの工房を出ていたので、おそらくこの島のどこかにいるはずだ。
ともかく、一行は山を下り歩き始めた。
しかし、ハイドとフェリアの様子がおかしく、なんとなくギスギスした空気を感じた。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:49:53
山のふもとまで行ったその時、草陰から少女が飛び出してきた。
見れば血まみれで怪我をしている。ハイドが周囲を確認するが、敵の姿はない。
レンが治療しようと少女を確保したが、その少女は戻ってきたハイドを見るなり、怯えて逃げてしまった。
とりあえず少女を追いかけようとした一行だったが、その次に見た少女は既に息絶えた後だった。
そして少女の死体の後ろに立つのは、黒装束の一団。
その姿はフェリアの母親を殺した、赤い竜を祀る教団と酷似していた。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:50:42
言葉を失くす一行に、教団を代表すると思われる男は、一人の青年の姿を見かけて声をかけた。
「何をしているのだ?ハイドよ」
全員がハイドを振りかえる。全身の黒装束、そして、その耳に光る赤いイヤリング。
教団とハイドの共通項、それは、ハイドが一体何者であるかを皆に悟らせるには十分な証だった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:51:27
皆の視線が自分に集まったのを感じたハイドだったが、目の前にいる事実から、彼は決して目を逸らさなかった。
覚悟していたことだ。自分の父親が率いていた教団が一体何をしていたのか、そして、本当にフェリアを殺そうとしていることを知った時から。
そして、決めたはずだ。自分が、友だちのために、何をするのかも。
「あんたこそ、何をしているんだ、親父」
緊迫した空気の中で、どこかに罅が入った―――そんな音が聞こえたような気がした。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:52:08
ハイドは認めた。この目の前でいたいけな少女を殺し、なおかつフェリアの、そしてテルノーの母親を殺した人物が自分の父親であるということを。
目の前の人物がゆっくりとフードを脱ぎ捨てる。
どこか、ハイドに似た面影がそこにあった。ハイドの父親、「夕焼けの星」教祖ラルクルド・ブラウン。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:52:46
「何とはなんだ。この少女は自ら赤い竜の生贄になりたがっていたのだ」
そうラルクルドは語る。その目は自らのしたことに対してなんら罪悪を感じていなかった。
陶酔するような、確信にあふれたような、狂信者の瞳だった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:53:18
一行が反応する前にラルクルドは息子に尋ねた。
「それで、お前は何をしている?楔の巫女を殺すように命じたはずだが」
その目がフェリアを捉えると、後ろの方でフェリアが身を固くするのが感じられた。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:53:56
「楔の巫女を殺しても竜の封印は解けないと…」そう答えるハイドの言葉を遮ってラルクルドは話し始める。
「いつまでもそんな言い訳が通じると思うな、ハイドよ。
我らには預言者様がついているのだ。
預言者様はおっしゃった。『今がその時だ』と。
そう、今こそ赤き竜を解放し、我らの悲願を成し遂げるのだ!」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:54:25
「16年前と同じように、か?」
ハイドの返しにラルクルドが眉間に皺を寄せた。
「なぜお前がそのことを知っている?ずっと黙っていたはずだったが」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:55:17
そうだ。ハイドは何も知らなかった。教団のことも、フェリアのことも、赤い竜がどうして、封印されたかも。
「もう何も知らない俺じゃない!親父こそ、赤い竜と話したことがあるのか?赤い竜が本当に封印から解放されたいっていうのを聞いたのか?
竜の封印は勝手に解ける!親父のやってることは、全部、親父が勝手にやっていることだろう!」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:56:25
「赤い竜は我らが侵されることのない存在なのだ!全ての存在は赤き竜に捧げられるべきもの!
今は動けぬ赤き竜の代わりにこの世の全てを捧げ、かの存在を解放することこそわが教団の役目なのだ!」
狂信者の理を語り、ラルクルドはため息をつく。
「お前は、母親に似たようだな。実に残念だ」
その一言で、ハイドは自分を産んで亡くなったという母が、実際どうなったのかを、悟らざるをえなかった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:57:02
動揺するハイドだったが、告げられた事実は、過酷なものだった。
「お前の母親はこう言ったのだ『赤い竜に命を捧げるのはおかしい』『そんなことする価値などない』と。
だから殺したのだ。
お前はそうならぬよう育てたつもりだったが、どこで間違ったのか…」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:57:38
この人間は、たくさんの人間を、フェリアの、テルノーの母親を殺しただけでは飽き足らず、愛した妻を、自分の母親をも、自らの手で殺したのだ。
ハイドの耳から音が消えた。
息ができない。言葉が、もう続かない。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:58:12
そんな時、彼の耳に届いたのは、一行の保護者的存在の声だった。
「お前さん、16年前と同じようなことをするつもりか?」
フガクは、冷静にラルクルドを見ていた。ヤマトの家で16年前の風景を見た時と打って変わった静けさだ。
「そんなことは絶対にさせない。16年前の惨状など二度と繰り返させない。
その少女のような犠牲がまた出る前に、力尽くでも止めてみせる」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:58:41
その言葉に、レンが続ける。
「私は医者だ。命を奪うような行為を黙って見てるわけにはいかない」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 17:59:11
そうだ。自分は、父を、超えるのだ。今ある教団を潰すために、そして、新しい赤い竜のための、フェリアのための教団を立て直すために。
もう、誰の命も、奪わせないために。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:01:47
震えは止まった。確かな意志を持った指先が、耳で光る赤いイヤリングを捉え、そして自らの手で外したそれを、ハイドは父親目がけて投げつけた。
「何をしているのだ、ハイドよ」
第一声と同じ言葉を、第一声と違った動揺を含み、ラルクルドが発する。
赤いイヤリング、それは教団の証。それを捨てるということは、教団と決別するということだった。
ラルクルドと目線を合わせたハイドにもう迷いはなかった。
「俺は教団を抜ける。そして、親父を超える」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:02:18
強い決意が現れた瞳に、ラルクルドは何かを悟ったのか刃を構えた。
「ならば仕方がない。赤き竜に逆らう愚か者どもめ。
自らの身を捧げ、その罪を償うがよい」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:02:46
ラルクルドの言葉に、重装の剣士と女魔術師が一行の前に立ちふさがる。
3つの声が唱和する。16年前と同じように、その犠牲者の子供たちに対して。
「「「夕焼けの如き赤き竜に、星の如き輝ける繁栄を」」」
「そして」
「世に平穏のあらんことを」
その言葉を合図に夕焼けの星と、ガードナー、双方が地を蹴った。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:04:25
前方で皆が戦っている。
私は、後ろで身を守っている。
だって、私は「楔の巫女」だから。
「楔の巫女」だから―――?
そう思った時、ふっとあたりが暗くなった。
何が起こったのか、振りかえろうとしても身体が動かない。
叫ぼうとしても声も出ない。
混乱する頭の中に、声が響いた。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:05:13
「貴女は、お友達のことを随分と気に入っているようですね
信頼できる仲間というのは得難く素晴らしいものです。
大切にしたいのはよくわかりますよ」
優しい、声。でも気持ち悪い。
生傷を撫でられるような、真綿で首を絞めるようなそんな声。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:05:45
声は続けた。
「しかし、あなたが信頼していても、彼らの方はどうでしょうか?
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:07:01
例えば、貴女の担当医。
16年前、貴女のことを助けたようなことを言っていたけれども、はたして本当に、それは貴女を助けるためだったのかな?
貴女を助けるために、はたして自分の親しい女性の体を、しかも惨たらしく殺されたあとの死体を引き裂くようなことをするだろうか?
彼はもしかしたら、貴女の母親に好意を持っていたのかもしれない。しかし、彼女は彼の物にならなかった。
だから彼はずっと、貴女の母親を壊したかったのかもしれない」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:08:15
やめて、聞きたくない。
フェリアの声にならない叫びを無視して声は続ける。
「例えば、貴女の保護者。
教育係としてずっと貴女と一緒にいた彼ですが、彼が貴女の教育係になったのは
元いた神殿の戒律を犯して、その代償らしいのです。
彼はこう考えているかもしれない。
『フェリアのことは放っておいて故郷に帰りたい』と」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:09:03
やめて
「例えば、貴女の親友。
親友というだけあって随分と仲がよろしいようですが、彼女の父は竜の研究者です。
そして貴女の過去を知り、貴女が竜の血を引くことも知っている。
彼女も、貴女のことなんて本当は研究対象くらいにしか見ていないかもしれない。
友だちだなんてこれっぽっちも思ってもいないかもしれない」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:11:37
やめて!
「そうそう、ハイド君…でしたか?
彼がいい例です。ずっと友達だと思っていたのに、貴女の母親の仇の息子で、ずっとあなたの命を狙っていた。
さっき教団と決別する、なんて言っていましたが、それは演技かもしれない。
本当はまだ貴女を騙しているんですよ」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:12:41
声はどんどんフェリアを暴いていく。
違う、そんなこと思ってない。
そう言いたいのに、どこかで否定できない自分がいる。
ずっと不安だった。その不安を、優しい声が形にしていく。
絡め取って、逃げ道をなくし、目の前に突き出してくる。
これが、本当の自分なんだと。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:13:18
そして、声は暴こうとする。フェリアの、一番、考えたくなかった、それでも考えずにはいられない、現実を。
声が出ない。叫びたいのに。違うと、そんなことは考えてないんだと、声をあげて叫びたいのに。
身体が動かない。そんなこと、聞きたくない、聞かせないでと耳を塞ぎたいのに。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:14:32
やめてやめてやめ―――「けがはないか?」
そうフガクの声で我に返る。
見れば戦闘は終わっていて、ちょっとぼろぼろになったフガクが、自分を覗きこんでいた。
少しボーっとしながらも頷くと、大きな手がポンポンと私の頭を撫でて、フガクは少女の遺体へと向かう。
荷物の中から毛布を取り出してその小さな体を包む。
皆は元気そう。ちょっと先生が怪我してるけど。
勝ったんだ。
そう、ほっとした瞬間、フェリアの意識はまた、暗闇へと堕ちていった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:15:57
消耗はしたが、フガクとレンが負傷した他は、特に何事もなく戦闘は終了した。
夕焼けの星は破れ、ラルクルドは地面に仰向けに転がっていた。
ラルクルドにはわからなかった。
どうして自分が破れたのか。
我らには預言者様がついている。
彼の言うとおりにすれば、我らはかつての隆盛を取り戻せたはずだった。
赤い竜、その御身が輝く流星のように空に舞う日が来るはずだったのに。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:16:38
ラルクルドはハイドを見た。自分の理想を否定した我が子。
何よりも愛しい自分の息子を。
そして、その後ろ、少し離れたところにいるフェリアを見た。
預言者様が殺せと命じた。赤き竜復活のための、鍵となる少女。
その背後に、預言者の姿を見たとき、ラルクルドは悟ったのだ。
預言者が、教団を裏切ったことを。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:17:17
「どうしてですか!預言者様!」
ラルクルドの叫びに、全員がラルクルドを見、その視線の先にいたフェリアと横に立つ長髪の男を見る。
「フェリア!」
皆が名前を呼ぶがフェリアの目は虚ろで反応を示さない。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:17:53
傍らの男がガードナーに微笑みかける。
「ガードナーの諸君、私の名はルドウェーレ。この娘は頂いていきますよ」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:18:36
そんな中ラルクルドは動かぬ身体を引きずるように預言者に這い寄った。
「我々はあなたの言葉を信じ、赤き竜に全てを捧げてきたのに…
あなたに導かれ、再び立ち上がったというのに!」
何故自分がこうして地に伏せ、導き手である預言者が仇敵とも言うべき楔の巫女の肩を抱いているのか。
慟哭が空を裂く。
ガードナーはそうはさせじとルドウェーレに攻撃を仕掛けるが、全ての攻撃は男に届く前に四散する。
その間に男の周囲は闇に包まれていく。転移魔法の気配にガードナーは攻撃の手を強めるが、やはり徒労に終わる。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:19:15
余裕すら感じさせるような仕草でルドウェーレはさも残念そうな、申し訳なさそうな顔でラルクルドに告げた。
「私とて全能の神ではないのです。時として道を誤る事もある」
そうして、今度は満面の笑みで手をラルクルドに向けてかざした。
「…しかし、貴方に新たな力を授けることも出来る。
さあ、今一度立ち上がりなさい。貴方には乗り越えるための力があるのです」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:19:49
ラルクルドは絶叫した。
手が生えた。
もともと、握っていた短剣を包むように、腕の筋肉が表皮を破り、肥大化した。
短剣だったものは炎を宿し、宿主の命を喰らい、赤々と燃えた。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:20:22
嫌な音がして、ラルクルドの背中が裂けた。
とても人体が出す音とは思えないような音を立てて、ラルクルドの背中から血のようにドス黒い色をした触手が何本も生えた。
テルノーが特攻を仕掛けるが、触手により簡単にいなされてしまう。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:20:53
ラルクルドは狂喜した。
「この力があれば、今度こそ必ず、赤き竜に全てを捧げ、かの存在を解放することができる!」
背中から生えた触手はそこら辺に転がっていた信者の身体に繋がった。
繋がったところから何かが流れ込み、人ではなくなった信者は再び立ち上がった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:22:08
ぶらぶらと不安定に、狂気すら含んで、もうそれは人には戻れないことは誰の目から見ても明らかだった。
「「「夕焼けの如き赤き竜に、星の如き輝ける繁栄を」」」
ルドウェーレとフェリアは既に、転移してしまってこの場にいない。
しかし、目の前に現れたこの化けものを何とかするのが先決だった。
ハイドの父親であった「それ」とガードナーは対峙した。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:22:53
ラルクルド覚醒体―――元ハイドの父親の化けものは強かった。
圧倒的な火力、そして機動力。
人間だったころと行動に差異は見られないものの、先ほどの戦闘で摩耗した一行は苦戦を強いられた。
次々とリソースは切られ、フガクが倒れたが、確実に積み重なったダメージに遂に化け物は倒れた。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:23:26
今度こそ、動かなくなった化け物の死骸の中で、ラルクルドの目が僅かに正気を取り戻す。
「私はどこで間違ったのだろうか」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:23:56
ラルクルドの目が優しさを伴ってハイドを見た。全てを悟ったような幼ささえ感じさせるその顔は、紛れもなくハイドの父親のものだった。
「お前は間違えるなよ」
そう言って、ラルクルドは薄く笑った。
「息子の手でこの生を終えられるなんて、悪くない人生だった」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:26:00
「間違えないさ」
ハイドは答える。
「あんたは、まず母さんに謝ってこい」
その言葉に、少しきょとんとなって、ラルクルドは乾いた声で笑った。
「そうだな。母さんと、その他にもたくさんの人に謝らないとな。
…真っ直ぐに、生きるんだ。ハイド」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:26:56
それが最期の言葉だった。
「夕焼けの星」教祖、そしてハイドの父親である男はその笑顔のまま、さらさらと灰になって散っていった。
後に残されたのは、教祖の証である、赤いペンダント。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:27:37
父親が逝ったのを見届けて、ハイドは持っていた弓を置き、皆へと向き直った。
「今まで黙っていてごめん…!」
ハイドは手をついて謝った。
自分の父親の教団がやっていたこと、自分がフェリアを殺すように言われていたこと。
教団が人殺しをしていたなんて、ついこの間まで知らなかった。
フェリアは友達だし、自分はフェリアを殺そうなんてこれっぽっちも思っていなかった。
でも、そのことを黙っていた。
フェリアが危険にさらされていることを承知で、黙って、皆の信頼を裏切っていたのだ。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:28:44
そう言って頭を下げるハイドに、テルノーが黙って近づいた。
そして、顔を伏せたままのハイドを力尽くで立たせ、その頬を力いっぱいぶん殴った。
衝撃で近くにあった木に叩きつけられるハイド。
あまりの痛みに蹲る彼に、テルノーは手を差し伸べた。
「謝る相手が違う。お前が一番に謝らないといけないのは、フェリアだろう」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:29:11
その手を掴んで立ち上がるハイド。
そうだ。謝らないと。そのためには、連れ去られたフェリアを助けないと。
二人の視線が交り、笑みを交わすと、ハイドはその衝撃が大きかったのか気を失ってしまった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:30:09
崩れるハイドの身体を抱き止めたテルノーだったが、衝撃が一行を襲った。
地震か、という考えが頭をよぎるものの、その揺れが尋常ではないことに気付く。
空気が揺れているのだ。
大地は裂け、木は呑みこまれ、やっと揺れが収まる頃には、辺りの様子は一変していた。
暗黒の空に包まれるアルシーア島。
一行の目の前に現れたのは、おぞましくも美しい、白い巨大な繭だった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:30:44
暗転。
どろりと融ける、瞑い闇。まとわりついて離さない。
指の一本すら動かせない、闇、闇、闇。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:31:12
声が聞こえる。
声が私に絡みつく。
絡みついて暴いていく。
私が知られたくない秘密。私が認めたくない真実。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:32:16
「貴女は随分とお友達のことを信頼しているようだ。
実に素晴らしい。
しかし、貴女はどうかな?
貴女は本当に、愛されるに足るような人物なのでしょうか?
貴女の弟…テルノー君、と言いましたか?」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:32:41
耳を塞ぎたくても、腕は固まったまま動かない。
やめて、その先は、その先は聞きたくない。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:33:15
フェリアの心を知ってか知らずか、無慈悲にも声は続けた。
「不思議ではありませんか?
貴女方が生まれた時、貴女だけが元気に生まれ、弟は今にも死にそうだった。
どうして貴女だけなんともなかったのでしょうか?」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:33:48
どうして、と何度も問いかけた。過去を知ってから、自分が生まれた瞬間を目の当たりにしてから、…本当はもっと前から。
テル君が私の、弟なんじゃないかって思ってから。
でも考えたくなかった。だって、その答えは、多分、きっと
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:34:26
思考の先を声が続ける。フェリアの肯定したくない答えを勝手に形作る。
「なぜか?
それは、貴女が生まれ持った強大な魔力により、弟の魂を奪ってしまったのです。
母親の死を感じ取った貴女は、生き延びるために弟の命を奪おうとした。
哀れな弟は、実の姉に魂を奪われたことにより、衰弱し、死にいたる所だった。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:34:53
貴女は生まれながらの魔女なのです。
肉親の命を喰らい、生にしがみつこうとする恐るべき魔女なのです」
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:35:27
ずっとずっと考えていた。
私が生きている理由。私が死ななかった理由。
私はテル君を殺そうとした。いや、もう多分ほとんど殺していた、といった方がきっと正しい。
私は、自分が生き延びるために、友だちを、家族を、殺したんだ。
Re: アリアンロッド2e ラヴァーズ5「熟した果実」 - noka
2015/09/28 (Mon) 18:36:17
「そんな貴女を一体誰が愛してくれる?
いや、誰も愛してなどくれないでしょう。
貴女は愛される価値のない人間だ。それ以前に恐ろしい人殺しなのですよ」
フェリアの叫びは、深い深い闇の中で、誰にも届くこともなく、音もなく消え去った。